2021年12月13日 — GICのCEOであるリム・チョウ・キャット氏は、先日、日本で開催されたGIC40周年記念イベントでスピーチを行いました。リム氏は、GIC日本オフィスの責任者である杉本健氏との対談の中で、日本がGICにとって重要な投資先でありつづける理由を次のように語っています。
杉本:私は約5年前にGICに入社しました。その後、日本オフィスが12名の投資プロフェッショナルを擁するまでに成長し、不動産市場やクロスアセットクラスの投資機会をカバーするようになる過程を見てきました。シンガポールオフィスにも、他のアセットクラスを担当する投資マネージャーやアナリストが在籍しています。チョウ・キャットさん、GICの日本に対する取り組みについて教えてください。
リム: GICは30年以上にわたって日本への投資を続けており、あらゆるアセットクラスで確かな実績を上げています。 1980年代における株式と債券への投資から始まり、1990年代には不動産とプライベート・エクイティ、2010年代にはインフラストラクチャー、さらにはオーダーメイドなキャピタル・ソリューションへと投資対象を拡大してきました。
またGICは、他の海外投資家よりもかなり早い時期から日本に進出し、現地での営業活動を開始しています。これにより、市場に関する貴重な知見を得ただけでなく、日本の政策立案者、投資先企業、ファンドマネージャー、投資機関や金融機関などと長期的な関係を構築してきました。長年にわたる市場サイクルの中で、私たちの日本における取引の開拓、方針の検討、そして投資活動についてご尽力くださったパートナーの皆さまには、深く感謝しています。不動産分野では実際に、GICは日本における最大の海外機関投資家のひとつとなっており、オフィスや商業、住宅、ホスピタリティ、物流など、あらゆるセクターを網羅するポートフォリオを有しています。
日本は大規模かつ近代的な経済圏です。様々な産業、とりわけ精密工学、化学、電子工学、ロボット工学などの特殊な分野で、世界レベルの企業や製品が数多く存在しています。日本は、GICのグローバル・ポートフォリオの中で依然として重要な位置づけにあり、その割合は8%にのぼります。
杉本:日本はデフレと高齢化という特有の問題を抱え、潜在的な成長見通しが低くなっていると言われており、2020年の日本のGDP成長率は-5.8%という過去60年で最低の数値を記録しました。GICは、日本における投資見通しについてどう考えているのでしょうか。
リム:日本も他の多くの市場と同様に、2020年のコロナ禍では感染拡大防止のため広域でロックダウンが実施され、過去最大級の不景気に直面しました。私たちは、今後数年にわたって日本の経済成長が回復すると予想しています。その理由には、世界で景気回復が広がっていることや、日本でワクチンが迅速に普及したこと(12月上旬までの接種完了率は世界的にも高い水準である80%近くにまで達しており、5%未満という6ヵ月前の数値から飛躍的に上昇)、そして有効な財政・金融政策による支援が続いていることが挙げられます。しかし同時に、オミクロン株のような経済活動に打撃を与え得る変異株の発生など、重大な不確定要素も残っています。
グローバルな長期投資家として、GICは長期間にわたってリターンを生み出せる投資先を見出すことに焦点を当てています。こうした投資は、次のテーマに沿って見出せるものと考えています。
一つ目のテーマは、業界の統合です。他の多くの先進国と比較して、日本ではいまだに多数の産業が細分化されており、この点はリスクであると同時にチャンスでもあります。リスクとなるのは、世界で競争するには企業規模が十分でないケースがあることですが、この問題は、企業統合や企業間連携によって解決し、チャンスに転じさせることが可能です。GICでは、日本チームと複数の企業が、統合、再編成、スピンオフ、そのほか様々な資本ソリューションに取り組むことで、国内外での競争力を高めることを目指してきました。
二つ目は、企業改革です。 アベノミクス以降、日本企業は資本効率の向上に力を入れるようになってきたと見受けられます。実際、多くの企業がコロナ禍にもかかわらず、高水準の現金と余裕あるインタレスト・カバレッジ・レシオを持った健全なバランスシートを有しています。ゆえに、日本企業が財務状況を最適化し、株主価値を向上させるチャンスは大いにあります。すでに、成長を追い求めて非中核資産の売却や子会社の買い戻しを検討する企業は増えており、こうした戦略は低コストのレバレッジによって付加価値を創出することも可能です。
三つ目は、多くの日本企業が、消費財やハイテク製品において、世界のデジタル化の流れを推進する強力かつユニークなポジションにあることです。 こうした技術や製品の多くは、他の国や企業が再現することが困難なものです。私たちは長期投資家として、こうしたユニークな価値創造の恩恵を受けるため、これらの資産を特定・保有することを目指しています。
次に取り上げるのは、上場企業、非上場企業を問わず、世代を超えた事業承継です。 新しい世代のリーダーが、リストラや成長に対してより寛容になり、志を同じくする長期投資家とパートナーシップを組むことで、これらのビジネスはさらに速く、大きく拡大する可能性を秘めています。
また、GICにとって重要な焦点の一つであり続けるのが観光業です。 長年にわたって、私たちはこの分野に前向きな見通しを持っており、さらなる投資を行いたいと考えています。新型コロナウイルスは大きな課題でしたが、私たちは観光業が力強く回復すると確信しています。
そして、持続可能性です。日本は2050年までにネット・ゼロ・エミッションを達成するという目標を掲げており、再生可能エネルギー分野に大きな成長の可能性を秘めています。また日本は、特に省エネやリサイクルなどの優れたサステナブルな技術を持っています。持続可能性への取り組みについてマーケティングし、世界の格付け機関に率先して働きかけることで、世界中の投資家から信頼を得ることが期待できます。GICは、日本企業のグリーン資産への移行や投資を支援することに、魅力を感じています。
杉本: こうしたポテンシャルを日本企業が自覚していくには、どうすべきでしょうか?
リム: 一つの良い方法は、長期的な資本を提供でき、ビジネスの根本をよく理解しているパートナーと協力することです。企業にとって、リストラや転換、スケールアップ、あるいは地理的に拡大する際には、グローバルな視点や、アセットクラスをまたぐ柔軟性と専門知識、そして強力なネットワークを持ったサポーティブな投資家がいることは有益です。ますます競争が激化し急速に変化する世界において、こうした存在の重要性が高まっています。
GICは、日本とアジアにおける確立されたプレゼンスにより、米州と欧州との橋渡し役を長年にわたり担ってきました。私たちは、グローバルなネットワークや、専門知識、そして重要課題についてのインサイトを積極的に共有することで、我々の投資先と投資そのものに長期的な価値をもたらすことを目指しています。
GICは、引き続きパブリック市場とプライベート市場の双方において数多くのボトムアップ・アプローチの投資機会を見出し、日本でのパートナーシップやプラットフォームを拡大させることで、より多くのことを実現していきたいと考えています。