2023年04月22日 — この調査記事は、GICのサステナビリティ&トータル・ポートフォリオ・サステナブル投資責任者であるレイチェル・テオ氏と、オルテック・ファイナンスの気候・ESGソリューション担当マネージング・ディレクターであるウィレマイン・フェルデガル氏による共著です。

要約

  • GICのような長期投資家にとって重要な懸念事項である気候変動は、実物資産や企業の価値に対して切迫した多大な影響を長期にわたって与える可能性があります。したがって、トップダウンとボトムアップの両プロセスに気候変動リスクを織り込むことは、レジリエントなポートフォリオを確保するために不可欠です。
  • GICは、トップダウン・レベルにおいてオルテック・ファイナンスおよびケンブリッジ・エコノメトリクス(Cambridge Econometrics)と提携し、気候変動の要因が長期的な資本市場の見通しにどのような影響を与えるかを定量化しました。ポートフォリオに対してさまざまな気候変動シナリオでストレステストを実施することで、リスクが高まる分野を特定し、これにより、ポートフォリオをより気候変動に対してレジリエントにするためのさらなる深い分析と緩和策に注力することが可能となりました。
  • 私たちの分析では、主な気候関連リスクとして以下を挙げています。
    1. 気候変動政策のタイミングと網羅性(適時に実施する場合、延期して実施する場合、実施が遅れる場合、まったく実施しない場合。また、パリ協定を達成するのに十分なものであるかどうか)
    2. 物理的リスクの範囲(急性および慢性)
    3. 市場が将来の気候関連要因をスムーズにあるいは破壊的に織り込んでいるか、また、それらが市場心理へのショックをもたらすかどうか

気候変動に関連する移行リスクと物理的リスクに対する市場および市場心理へのショックについて織り込むことの効果を模索している点は、オルテック・ファイナンスの気候変動シナリオへの取り組みにおける主な革新的特徴です。

  • 投資家は、気候変動の長期的な要因の変遷と、それらがポートフォリオに与える影響を継続的に評価する必要があります。また、長期的な投資環境が展開し得る新しい方向の可能性も取り入れ、モデル化の手法を更新していくことも非常に重要です。したがって、本報告書はGICとオルテックが2021年7月に発表した文書「投資ポートフォリオにおける気候変動シナリオの役割」にアップデートを加えるものであり、その主要な新しい特徴として強調すべきは以下の2点です。
      1. 一つ目の特徴は、2-3℃の気温変化を伴う新たな第四のシナリオ「不足・手遅れ(Too Little Too Late)」を加えている点です。このシナリオでは、気候変動政策が遅れることで気候変動の物理的なインパクトを抑制できず、移行リスクと物理的リスクの両方が高くなることを想定しています。これは、GICの投資家としての懸念を反映した、より広範かつニュアンスに富んだ文脈を含むシナリオであり、現在市場にあるいずれの気候変動シナリオにも含まれないものです。
      2. 二つ目の特徴は、物理的な気候変動リスクがインフレに与える供給サイドの影響を更新した点です。これらはインフレを促進させ、物理的リスクによる成長率の低下がもたらすデフレの影響を打ち消すものであると言えます。
  • 独自分析による4つの気候変動シナリオ
    • ネット・ゼロ(Net Zero, NZ)
    • 遅れた無秩序な移行(Delayed Disorderly Transition, DDT)
    • 不足・手遅れ(Too Little Too Late, TLTL)
    • 移行に失敗(Failed Transition, FT)
  • 私たちは、投資家は気候変動シナリオ分析の設計に対して積極的にアプローチすることが重要であると考えています。そのため、GICは公開されているシナリオセットと比較参照できると同時に、破壊的な市場価格の可能性や不十分な政策措置の可能性など、特定のニュアンスの見解も組み込んだシナリオセットの開発に投資しています。DDTとTLTLのシナリオはGICのためにカスタマイズされたものであり、ファンドがオルテック・ファイナンスとケンブリッジ・エコノメトリクスと緊密に協力して作成したものです。
  • すべての投資家が、自らのニーズに合わせたカスタムシナリオを開発できるわけではありません。GICは、質の高いさまざまな気候変動シナリオが、投資家のために、そしてできれば投資家によって開発され、資産家や運用会社が検討できるようにすべきであると考えています。私たちが開発した特注シナリオのパラメータを使用したいと考える投資家は、オルテック・ファイナンスに問い合わせることが可能です。
  • 私たちの2021年の研究と比較すると、最新のシナリオはマクロ変数におけるボラリティの高まりをより明確に示しています。これは、異常気象や政策ショックへの反応、そして破壊的な市場価格決定メカニズムや市場心理へのショックの影響によって、特にDDTシナリオとTLTLシナリオのケースで見受けられます。
  • 特定の市場、セクター、企業、ビジネスモデルにはアップサイドの可能性があるかもしれませんが、気候変動が広範な市場のベータに与える影響はネガティブなものになると予想されます。新興市場で、低炭素な公益事業へのエクスポージャーが現在低いものや、脱炭素技術や適応技術のうち現在は発展途上だが政策支援や資本流入の増加により規模が拡大する可能性のあるものには、チャンスが見られます。株式や不動産などのリスク資産については、債券や現金に比べて気候変動の影響に対して敏感です。
  • 株式60%、債券40%のグローバルポートフォリオを想定した場合、気候変動があっても長期的にリターンはプラスになる可能性があるものの、4つのシナリオすべてにおいて予測されるリターンは、気候変動の影響を受けないベースラインと比較して有意に低くなります。したがって、長期投資家は、自分たちの期待に比してポートフォリオのパフォーマンスが低下することに驚かれるかもしれません。
  • 投資家は、移行リスクに加えて、気候変動に関連する物理的リスクがポートフォリオに与える影響を考慮し、気候関連のショックに対する市場のボラティリティが上昇する可能性に対応できるよう備えておく必要があります。
  • 世界のGDP成長率に対する影響と同様に、投資ポートフォリオは「移行に失敗」のシナリオで最悪の結果となりました。このシナリオは、新たな気候政策が導入されないため移行リスクは低いものの、物理的リスクが最も高くなります。
  • GICの長期的なマンデートを踏まえると、ポートフォリオに内在する気候変動関連の移行リスク、物理的リスク、市場リスクに対応できるよう備えておくことは不可欠です。気候シナリオ分析は、リスク対応の中心的な役割を果たすとともに、トップダウンの戦略的アセットアロケーション、ストレステスト、リスクマネジメントを通して、またボトムアップのシナリオ想定の統合や、アクティブな投資プロセスに織り込むことを通して、投資プロセスに組み込むことが可能です。
  • GICの長期的なマンデートを踏まえると、ポートフォリオに内在する気候変動関連の移行リスク、物理的リスク、市場リスクに対応できるよう備えておくことは不可欠であり、気候シナリオ分析はこうしたリスク対応の中心的な役割を果たします。また、トップダウンの戦略的アセットアロケーション、ストレステスト、リスクマネジメントを通して、またボトムアップのシナリオ想定の統合や、アクティブな投資プロセスに織り込むことを通して、気候シナリオ分析を投資プロセスに組み込むことが可能です。

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